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最高裁判所第一小法廷 昭和52年(オ)429号 判決 1977年12月22日

主文

原判決中、主文第一、二項を破棄する。

被上告人らの控訴を棄却する。

上告人のその余の上告を棄却する。

訴訟の総費用はこれを一〇分し、その四を上告人の負担とし、その余を被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人祖父江英之の上告理由について

労働者災害補償保険法に基づく保険給付の原因となつた事故が第三者の自動車運転上の不法行為によつて生じ、かつ、被災労働者の使用者が右事故につき自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償の責に任ずべき場合において、保険給付により受給者が第三者及び使用者に対する損害賠償請求権を失うのは、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られるのであつて、いまだ現実の給付がない以上、たとい将来にわたり継続して給付されることが確定していても、受給権者が第三者及び使用者に対して請求することのできる損害賠償の額を算定するにあたり、このような将来の給付額を損害額から控除すべきではないと解するのが相当である(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、昭和五〇年(オ)第六二一号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号登載予定参照)。

ところが、原審は、本件交通事故の被害者亡矢野泰近の妻である上告人が加害車を運転していた被上告人高津及び加害車の保有車であるとともに泰近の使用者である被上告人会社に対して請求することのできる損害賠償の残存債権の額は六一〇万〇一九五円及びこれに対する昭和四八年一二月二六日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金と弁護士費用四二万円であるとしながら、上告人に対し労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金として、いまだ現実に給付されていないが、将来にわたり継続して給付されることが確定している給付額のうち泰近の就労可能年数に対応する部分の現価を九一六万九一八〇円であると算定し、この現価を右債権額から控除すべきであるとの見解のもとに、右現価が債権額を超えることを理由として、上告人の請求を右債権額の部分(弁護士費用に対する遅延損害金の点を含む。)についても棄却した。この原審の判断は、法令の解釈を誤つており、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決中、右の部分は破棄を免れない。そうして、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人の請求のうち前記債権額に関する部分(弁護士費用に対する遅延損害金の点を含む。)を認容した第一審判決は相当であるから、被上告人らの控訴は失当としてこれを棄却すべきものである。また、原判決中その余の部分については、論旨は理由がない。

よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団藤重光 裁判官 岸上康夫 裁判官 藤崎萬里)

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